8. 周期境界条件とバンドの折り返し

8.1. 周期境界条件と許される波数

結晶中の電子の固有状態は、格子ベクトル \(\boldsymbol R\) の並進に対して位相 \(e^{i\boldsymbol k\cdot\boldsymbol R}\) だけ変化する(ブロッホの定理)。この波数ベクトル \(\boldsymbol k\) は、バンドの番号 \(j\) とともに状態を指定する量子数となる(並進対称性の群の既約表現に対応する)。ここで扱う位相は、単位胞から単位胞へ移ったときの位相の変化を表すもので、結晶中の電子の波動関数そのものが単純な正弦波であるという意味ではない(正弦波に単位胞内で生じる変調を乗せたものが実際の波動関数になる)。

基本格子ベクトル \(\boldsymbol a_i\) の方向に単位胞を \(N_i\) 個並べた有限の結晶を考え、その両端をつなぐ周期境界条件(Born–von Kármánの境界条件) \(\psi(\boldsymbol r+N_i\boldsymbol a_i)=\psi(\boldsymbol r)\) を考える。ブロッホの定理と合わせると \(e^{iN_i\boldsymbol k\cdot\boldsymbol a_i}=1\) という要請を課すことと等価である。 \(\boldsymbol k\) を基本逆格子ベクトル \(\boldsymbol b_j\) を基底として表すことにすれば(\(\boldsymbol a_i\cdot\boldsymbol b_j=2\pi\delta_{ij}\) なので)、

(8.1)\[\boldsymbol k=\sum_{i=1}^{3}\frac{m_i}{N_i}\,\boldsymbol b_i\qquad(m_i\ \text{は整数})\]

と取れば上記の周期境界条件を満たせることがわかる。逆格子ベクトル \(\boldsymbol G\) だけ異なる \(\boldsymbol k\) と \(\boldsymbol k+\boldsymbol G\) は、すべての格子ベクトルに対して同じ位相 \(e^{i\boldsymbol k\cdot\boldsymbol R}\) を与える(\(e^{i\boldsymbol G\cdot\boldsymbol R}=1\))ので、同じ並進の性質を表す。重複を避けてBZの中から \(\boldsymbol k\) 選ぶと、各 \(i\) の方向について \(m_i=0,1,\ldots,N_i-1\) となるので、 \(N=N_1N_2N_3\) 個、つまり 単位胞の個数と同じだけ波数がある ことになる。

1次元結晶の場合のイメージを 図 8.1 に示す。格子定数 \(a\) の単位胞を \(N\) 個並べた結晶を考えると、許される(独立な)波数は \(k=2\pi m/(Na)\) である。 \(k=0\) は位相が単位胞間で変化しない状態で、 \(k=\pi/a\) は単位胞ごとに符号が反転する状態である。また 図 8.1左 には、逆格子ベクトル \(2\pi/a\) だけ異なる波数が、各単位胞の位置で区別できなくなる様子も示されている。許される波数の間隔 \(2\pi/(Na)\) は、 \(N\) を増やすほど狭くなり、 \(N\to\infty\) の極限では、波数がBZを連続的に埋めることになる(図 8.1右)。

../_images/pbc_allowed_k.svg

図 8.1 格子定数 \(a\) の単位胞 \(N\) 個を輪につないだ1次元の結晶で許される波数 \(k\)。左: \(N=8\) のときの、各単位胞の位置での \(\cos kx\) (位相因子 \(e^{ikx}\) の実部、青い点)と、それを結ぶ曲線(灰色)。いちばん下の行の破線は、 \(k=2\pi/(8a)\) に逆格子ベクトル \(2\pi/a\) を足した波数の \(\cos kx\) で、単位胞の位置では実線(\(k=2\pi/(8a)\))と同じ値をとる。右: \(N\) = 4、8、16のときにBZ内で許される \(k\)。 \(-\pi/a\) と \(\pi/a\) は逆格子ベクトルだけ異なる同じ点なので、 \(\pi/a\) だけを描いた。 \(N\to\infty\) では、許される \(k\) がBZ全体を埋める。

8.2. スーパーセルとバンドの折り返し

同じ結晶を、よりサイズの大きな単位胞(スーパーセル)の並びとみなすこともできる。 1次元で、長さ \(Ma\) のスーパーセルを単位にとると、並進の単位も \(Ma\) になるので、状態は並進 \(Ma\) に対する位相 \(e^{iKMa}\) で分類されるようになる。元の波数 \(k\) の状態は、並進 \(Ma\) に対して位相 \(e^{ikMa}\) だけ変わるので、スーパーセルの波数 \(K\) は

(8.2)\[K\equiv k\pmod{\frac{2\pi}{Ma}},\qquad k=K+\frac{2\pi}{Ma}\,j\quad(j=0,1,\ldots,M-1)\]

で与えられる。スーパーセルのBZ \(-\pi/(Ma)<K\le\pi/(Ma)\) は元のBZの \(1/M\) の幅となる。元の1本のバンド \(\varepsilon(k)\) は、スーパーセルのBZでは \(\varepsilon_j(K)=\varepsilon(K+2\pi j/(Ma))\) の \(M\) 本のバンドとして現れる。これをバンドの折り返し(フォールディング)という。

\(N\) 個の単位胞の結晶は \(N/M\) 個のスーパーセルが並んだ結晶でもあるので、 (8.1) 式から許される \(K\) は \(N/M\) 個である。 \(N=12\) の結晶を \(2a\)、 \(3a\) のセルで記述すると、波数は12個から6個、4個に減り、そのかわりに各波数のバンドが2本、3本に増える(図 8.2)。状態の総数(波数の数 × バンドの本数)は12のままである。

../_images/pbc_band_folding.svg

図 8.2 \(N=12\) の1次元の結晶の状態(青い点)を、単位胞 \(a\) (左)、 \(2a\) のスーパーセル(中)、 \(3a\) のスーパーセル(右)で記述したもの。灰色の曲線は模型のバンド \(-\cos ka\) と、それをセルのBZに折り返したもの。点の数はどれも12個で、BZの境界やバンドの交点で重なった点は2つの状態を表す。横軸の幅は、それぞれのセルのBZの幅に比例させた。

3次元では、スーパーセルの格子ベクトルを整数行列 \(M\) を用いて \(A_\mathrm{sup}=AM\) と書くことができる(格子基底と座標系の変換)。スーパーセルの体積は \(|\det M|\) 倍に、 BZの体積は \(1/|\det M|\) 倍になり、元の波数 \(\boldsymbol k\) はスーパーセルの逆格子ベクトル \(\boldsymbol G_\mathrm{sup}\) だけずらして小さなBZに折り返される(\(\boldsymbol K=\boldsymbol k-\boldsymbol G_\mathrm{sup}\))。1つの \(\boldsymbol K\) に元の \(|\det M|\) 個の波数が対応し、バンドの本数は \(|\det M|\) 倍になる。

8.3. 折り返しの意味

折り返しは、同じ状態をどの大きさのセルで記述するかの違いであり、それだけでは物理は何も変わらない。 図 8.2 の折り返されたバンドは、BZの境界や内部で交わったり接したりするが、ギャップは開かない。元の単位胞の周期 \(a\) があるかぎり、折り返されたバンドどうしは異なる並進の性質を持ち、混ざらないからである。

一方、原子の変位などで結晶の周期が実際に \(Ma\) に変わると、元の並進 \(a\) の対称性が失われ、同じ \(K\) に折り返されたバンドどうしが混ざる。このとき、折り返されたバンドの交点でギャップが開きうる。1次元鎖で隣り合う結合の強さが交互に変わり、周期が \(2a\) になると、 \(K=\pm\pi/(2a)\) でギャップが開く例を、タイト・バインディング近似 のホッピングが交替する鎖(SSH模型)で扱っている。周期の変化が小さいときには、スーパーセルのバンドが元のバンドを折り返した形にどれだけ近いかを調べることで、変化の効果を読み取れる。

計算の上では、スーパーセルのバンドの本数が増えるかわりに、BZが小さくなるので、同じ細かさで BZ積分を行うのに必要な波数の数が減る。この関係は k点サンプリングとブリルアンゾーン積分 で使う。

8.4. 関連項目

8.5. 参考資料

  • N. W. Ashcroft and N. D. Mermin, Solid State Physics (Holt, Rinehart and Winston, 1976), Chap. 8.