9. 既約k点と結晶の対称性

結晶の電子状態計算では、まずブリルアンゾーン(BZ)の多数のk点での計算を行い、最後にそれらの和をとって最終的な物理量を求める。結晶の対称性を使うと、同じ情報を持つ点をまとめ、代表点だけで計算できる。本稿ではブロッホ関数の変換からその理由を導き、代表点の重みを説明する。

前提知識: ブロッホの定理、ブリルアンゾーン、k点サンプリング。

学習目標:

  • 結晶の対称操作が波数とエネルギーに及ぼす関係を導く。

  • 既約k点の重みが元のメッシュの和を再現することと、その条件を説明する。

9.1. 結晶の対称操作

結晶の原子配置を保つ回転、鏡映、反転操作を \(Q\) とし、並進操作を \(\boldsymbol t\) とする。まとめて

(9.1)\[g=\{Q\mid\boldsymbol t\}\]

と表すことにする。位置 \(\boldsymbol r\) にこれを作用させると、位置 \(\boldsymbol r'\) に移るという場合

(9.2)\[\boldsymbol r' = g\boldsymbol r=Q\boldsymbol r+\boldsymbol t,\qquad g^{-1}\boldsymbol r' = \boldsymbol r = Q^{-1}(\boldsymbol r'-\boldsymbol t)\]

となる。Cartesian座標で \(Q\) は直交行列、 \(\boldsymbol t\) はベクトルである。対称操作の直交部分の集まりは結晶の点群をなす。以下では、原子配置だけでなく、電子のハミルトニアンも不変に保つ操作を考える。

9.2. ブロッホ関数の変換

スピンを明示しないスカラー波動関数を考える。波数 \(\boldsymbol k\) のブロッホ関数は任意の格子並進 \(\boldsymbol L\) に対して

(9.3)\[\psi_{\boldsymbol k}(\boldsymbol r+\boldsymbol L) =e^{i\boldsymbol k\cdot\boldsymbol L}\psi_{\boldsymbol k}(\boldsymbol r)\]

を満たす。 (9.1) に対応する関数の変換を考える。関数と位置を同時に変換すると、それは元と何も変わらないので、

(9.4)\[(U_g\psi_{\boldsymbol k})(g\boldsymbol r) =\psi_{\boldsymbol k}(\boldsymbol r)\]

となる(\(U_g\) は変換に対応した演算子とする)。ここから

(9.5)\[(U_g\psi_{\boldsymbol k})(\boldsymbol r) =\psi_{\boldsymbol k}(g^{-1}\boldsymbol r) =\psi_{\boldsymbol k}\!\left(Q^{-1}(\boldsymbol r-\boldsymbol t)\right)\]

が導かれ、これで演算子 \(U_g\) の作用が具体的に書き下せた事になる。

\(g\) で移した結晶は元の結晶と同じなので、格子並進も格子並進に移り、 \(Q\boldsymbol L\) と \(Q^{-1}\boldsymbol L\) も格子並進である。 (9.3) を \(Q^{-1}\boldsymbol L\) に使い、 \(Q\) の直交性(\(Q^{-1}=Q^{\mathsf T}\))から \(\boldsymbol k\cdot Q^{-1}\boldsymbol L=(Q\boldsymbol k)\cdot\boldsymbol L\) とすると

(9.6)\[\begin{split}\begin{aligned} (U_g\psi_{\boldsymbol k})(\boldsymbol r+\boldsymbol L) &=\psi_{\boldsymbol k}\!\left(Q^{-1}(\boldsymbol r-\boldsymbol t)+Q^{-1}\boldsymbol L\right)\\ &=e^{i\boldsymbol k\cdot Q^{-1}\boldsymbol L}(U_g\psi_{\boldsymbol k})(\boldsymbol r)\\ &=e^{i(Q\boldsymbol k)\cdot\boldsymbol L}(U_g\psi_{\boldsymbol k})(\boldsymbol r). \end{aligned}\end{split}\]

したがって \(U_g\psi_{\boldsymbol k}\) は波数 \(Q\boldsymbol k\) のブロッホ条件を満たす。逆格子ベクトル \(\boldsymbol G\) に対して \(e^{i\boldsymbol G\cdot\boldsymbol L}=1\) なので、 \(\boldsymbol G\) だけ違う波数は同じブロッホ条件を与える。変換後の波数を \(\boldsymbol k'\) と書けば

(9.7)\[\boldsymbol k'\equiv Q\boldsymbol k\pmod{\boldsymbol G}\]

である。並進部分 \(\boldsymbol t\) は波数の行先には現れないが、波動関数の形や位相には影響する。

\(Q\) はCartesian座標の行列である。格子行列 \(A\) と逆格子行列 \(B=2\pi A^{-\mathsf T}\)(格子と格子ベクトル)を使い、実格子の分率座標で同じ操作を \(W=A^{-1}QA\) と表すと、逆格子の分率座標では \(B^{-1}QB=A^{\mathsf T}QA^{-\mathsf T}=(W^{-1})^{\mathsf T}\) となる。最後の等号には \(Q^{-\mathsf T}=Q\) を使った。一般には \(W\) をそのままk点の分率座標に掛けられない。

9.3. エネルギーの等価性

ハミルトニアン \(H\) がこの操作を保つとき、 \(HU_g=U_gH\) である。 \(H\psi_{\boldsymbol k}=\varepsilon\psi_{\boldsymbol k}\) なら

(9.8)\[H(U_g\psi_{\boldsymbol k})=U_gH\psi_{\boldsymbol k} =\varepsilon(U_g\psi_{\boldsymbol k})\]

なので、 \(U_g\psi_{\boldsymbol k}\) は \(Q\boldsymbol k\) の同じエネルギーの固有状態である。 \(U_g\) は1次独立な状態を1次独立な状態に移し、逆操作 \(g^{-1}\) で戻せるので、 \(\boldsymbol k\) と \(Q\boldsymbol k\) のエネルギー固有値の集合は縮退度を含めて等しい。各k点でバンドをエネルギーの低い順に番号付けると

(9.9)\[\varepsilon_n(Q\boldsymbol k)=\varepsilon_n(\boldsymbol k)\qquad(n=1,2,\ldots)\]

である。ただし、変換後の状態が、 \(Q\boldsymbol k\) であらかじめ選んだ固有関数と等しいとは限らない。位相は任意であり、縮退があると同じエネルギーの状態どうしが混ざり得る。

9.4. 既約k点と重み

メッシュを自分自身に写す対称操作で、 (9.7) によって互いに移り合う点を一組にする。行先は \(\boldsymbol G\) を法として考えるので、BZの境界で逆格子ベクトルだけ違う点は1点と数える。各組から1点ずつ選んだ代表が既約k点である。

組の点数 \(m_i\) は、使う操作の数 \(N_{\rm op}\) から決まる。代表点 \(\boldsymbol k_i\) を(\(\boldsymbol G\) を法として)自分自身に戻す操作が \(s_i\) 個あるとする。 \(Q\boldsymbol k_i\equiv Q'\boldsymbol k_i\) となるのは \(Q^{-1}Q'\) が \(\boldsymbol k_i\) を戻すときなので、組のどの点にもちょうど \(s_i\) 個の操作が行き着き、

(9.10)\[m_i=\frac{N_{\rm op}}{s_i}\]

である。一般の点では \(s_i=1\) で組は \(N_{\rm op}\) 点になり、Γ点のような対称性の高い点では組が小さい。

等間隔メッシュの全 \(N_k\) 点が等しい重みを持ち、被積分量 \(A(\boldsymbol k)\) が同じ組で等しいとき、 (8.6) の重みは

(9.11)\[\frac{1}{N_k}\sum_{\boldsymbol k\in\text{メッシュ}}A(\boldsymbol k) =\sum_{i=1}^{N_{\rm irr}}\frac{m_i}{N_k}A(\boldsymbol k_i),\qquad \sum_i m_i=N_k,\quad \sum_i\frac{m_i}{N_k}=1\]

と書ける。代表点に組の点数を掛けることで、元の和を正確に再現する。 \(A(\boldsymbol k)\) がエネルギーと占有数だけで決まる量(バンドエネルギーや電子数)なら、 (9.9) から同じ組で等しい。一方、電子密度へのk点ごとの寄与は位置の関数で、 (9.4) から \(|(U_g\psi_{\boldsymbol k})(\boldsymbol r)|^2=|\psi_{\boldsymbol k}(g^{-1}\boldsymbol r)|^2\) なので、 \(Q\boldsymbol k\) の寄与は \(\boldsymbol k\) の寄与を \(g\) で移したものになる。代表点だけの和を、各操作で移して平均(対称化)してから使う。

9.5. 正方格子の2次元メッシュ

90度回転と鏡映の8操作を持つ正方格子の結晶で、Γ点を中心とする \(3\times3\) メッシュを考える。逆格子の基本ベクトルを \(\boldsymbol b_1,\boldsymbol b_2\) とすると、 \(\boldsymbol k=s_1\boldsymbol b_1+s_2\boldsymbol b_2\) の \(s_1,s_2\) はそれぞれ \(-1/3,0,1/3\) のいずれかである。9点は次の3組に分かれる(横が \(\boldsymbol b_1\)、縦が \(\boldsymbol b_2\) の方向)。同じ記号は互いに等価な点を示す。

III    II    III
 II     I     II
III    II    III

Iは中心のΓ点、IIは軸上、IIIは対角方向の点である。Γ点は8操作すべてで自分自身に戻るので \(m=8/8=1\)、軸上の点はその軸に沿う鏡映と恒等操作の2個で戻るので \(m=8/2=4\)、対角方向の点も対角線に沿う鏡映と恒等操作で戻るので \(m=4\) である。 (9.11) の重みはそれぞれ \(1/9,4/9,4/9\) となり、例えば各組での値を \(A_{\rm I},A_{\rm II},A_{\rm III}\) とすると、元の9点の平均は \((A_{\rm I}+4A_{\rm II}+4A_{\rm III})/9\) である。鏡映の線に乗らない一般の点があれば、その組は8点になる。

9.6. Cuの計算例

Quloud ExamplesのCuの計算では、fcc Cuの基本単位胞についてΓ点を含む \(4\times4\times4\) メッシュの 64点が、Quantum ESPRESSO 7.5で8個の既約k点にまとめられる。各点の座標と重みはリンク先の表にある。 fccの点群の操作は \(N_{\rm op}=48\) 個である。8組の点数 \(m_i\) と、代表点を自分自身に戻す操作の数 \(s_i\) は、Γ点(1, 48)、Γ–L上(8, 6)、L点(4, 12)、Γ–X上(6, 8)、対称線の外の点(24, 2)、Γ–K上(12, 4)、X点(3, 16)、W点(6, 8)で、どれも (9.10) を満たし、点数の合計は64である。このメッシュの点はどれも何らかの鏡映面の上にあるので、 48点の組は現れない。

L点とX点はBZの境界にある。L点の方向は8つある( \(2\pi/a\) 単位で \((\pm\frac12,\pm\frac12,\pm\frac12)\))が、 \((\frac12,\frac12,\frac12)\) と \((-\frac12,-\frac12,-\frac12)\) のように逆格子ベクトル \((1,1,1)\) だけ違う2点は同じ点なので、 4点と数える。X点も同様に6方向が3点になる。

正規化した重みは \(m_i/64\) で、例えばΓ点は \(1/64\)、24点の組は \(24/64\) である。 QEの出力の重み wk は、スピン偏極のない計算ではスピンの縮退を含めて合計が2になるように書かれるので、比較するときはその総和を確かめる。

9.7. 適用範囲

  • 結晶の対称性だけでなく、シフトを含むメッシュ自体が使う操作で不変でなければならない。メッシュを保たない操作は使わず、保つ操作だけで組を作る。

  • ベクトルやテンソルの成分は一般に組の各点で同じ値ではない。電子密度と同じく、量自体の変換を考慮して全点の寄与を復元する。

  • 時間反転:スカラー波動関数でハミルトニアンが実なら、 \(\psi_{\boldsymbol k}^*\) も同じエネルギーの固有状態で、 (9.3) の複素共役から波数は \(-\boldsymbol k\) である。したがって反転操作がない結晶でも \(\varepsilon_n(-\boldsymbol k)=\varepsilon_n(\boldsymbol k)\) が成り立ち、既約化に使える。CuやSiのように点群が反転を含めば、新しい対応は加わらない。外部磁場がある場合や、磁性をスピン軌道相互作用とともに扱う場合には、この対応は一般に成り立たない。

  • スピン偏極計算:スピン軌道相互作用を含まない共線磁性では、スピンごとのハミルトニアンが実なので \(\boldsymbol k\leftrightarrow-\boldsymbol k\) は残る。ただし磁気秩序は原子配置より対称性が低いことがあり(反強磁性体で、同じ元素でも向きの逆の原子を入れ替える操作など)、使える空間の操作が減る。

  • スピン軌道相互作用を含む場合、操作はスピンにも作用するので、 (9.4) にスピンの回転が加わる。波数の対応 (9.7) は同じ導出で成り立つが、どの操作がハミルトニアンを保つかは磁気構造によって変わる。

既約化は元のメッシュの和を整理する操作であり、積分近似を粗くするものではない。メッシュの密度に対する収束は別に確かめる必要がある。並進部分が波動関数の位相に与える影響や、空間群による状態の分類は本稿では扱わない。

9.8. 関連項目

9.9. 参考資料

  • H. J. Monkhorst and J. D. Pack, “Special points for Brillouin-zone integrations,” Physical Review B 13, 5188–5192 (1976), doi:10.1103/PhysRevB.13.5188.

  • M. S. Dresselhaus, G. Dresselhaus, and A. Jorio, Group Theory: Application to the Physics of Condensed Matter (Springer, 2008).